『マッスルAIR』
〜〜〜プロローグ〜〜〜
その町には夏が訪れていた。
人形を操る一人の青年。
その周りには子供がふたりだけ。
観客の興味を引くには、青年の芸は退屈すぎた。
子供たちは興味を失い、その場を走り去った。
だから・・・捕獲した。・・・投網で。
青年は旅のひと。
彼の道連れはふたつ。
手を触れずとも歩き出す、古ぼけた人形。
「超筋力」を持つ者に課せられた、はるか遠い約束。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
がたん、がたん・・・
バスが夏の大気の下、古いエンジンを精一杯回して走っていく。
この暑さの中でもエアコンもないという、かなり年期の入ったバスの中には運転手を除けば一人しかいなかった。
その人こそ俺、国崎往人(くにさきゆきと)は全開にした窓にもたれるように外を見ていた。
眼前に広大な海が広がっていく。窓から吹きこむ風にも潮の香りが混ざってくる。
さんさんと差し込む陽射しが肌をじりじり焼いた。
夏はどこまでも続いてゆく。青く広がる空の下で。
ぷしゅぅ・・・
気の抜ける音を残して、バスが止まる。
着いた所は、山と海に囲まれた、小さく静かな町。
これから、しばらくの間、世話になる予定の町だ。
降りようとし、財布をさがしたところで気づく。
「・・・すまない。財布を落したようだ。・・・無理も承知で、降ろしてくれないだろうか・・・?」
俺は降りたい意思も伝えつつ、素直に運転手に話した。
「・・・お客さん、旅人かい?」
50の齢は越えたであろう運転手は静かに、ゆったりと言った。いかにも温厚そうな、そんな男だった。
「・・・ああ・・・」
「そうか・・・珍しいな、いまどき旅人など・・・ふぅ、しかたない」
どうやら見逃してくれるらしい。俺は心の中で感謝の気持ちで一杯になった。
ぐごごごごご・・・・・!!!!!!!
「・・・・・・とでもいうと思うたかぁ〜!!!甘いわぁぁぁ〜!!!!」
「なんですとーー!!!???」
いきなり運転手のおやぢの態度が豹変した!しかも!態度だけでなく身体まで!!
おやぢは一瞬に小さい子が見たら泣き出すよ級のマッスル野郎に変化した!!!
強烈なワセリン臭が鼻に突き刺さる!!!!
「ふんっ!!はぁっ!!!無銭乗車など愚の骨頂!!!その性根、俺が叩き直してくれるわ!!!!ふうんっ!!!」
ばしゅぅ〜!!!ぶろろろろろろ〜〜〜〜!!!!!!!
機器に触れてもいないのにドアがいきなり閉まる!!それと同時にこの世のものとは思えないスピードでバスが走り出す!!!
「今、貴様が選べる選択肢は2つ!!一つは我輩の下僕となるか!!じゅるり・・・かわいがってくれるぞ!!!
それとも、このまま一筋の閃光となって消えるかだ!!!!!!!」
「どっちも嫌だぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!(特に前者!)」
「よぉし!!!作戦了解じゃぁ〜!!!!」
「聞いてねぇぇぇ〜〜!!!」
「それよりも貴様ぁ〜!!ぬんっ!!!前振りが長いんじゃぁ〜!!!ふんっ!!!
このまま普通に終わってしまったらどうしようかと思うたわ!!!!ぬぅぅんっ!!!」
「いちいちポーズを決めるな!!!!ハンドルを持て!!!アクセル放せ!!!!
一瞬でトップギアに変えるなぁぁぁ〜〜〜〜!!!!!!」
「ふんっ!!はぁぁぁぁっ!!!!!!」
「200kmもスピード出すなぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!うあぁぁぁぁぁ〜〜〜・・・・・」
ギュァァァァァァァーーーーー!!!!
「ついたぞ!!!!はぁっ!!!こうなったら貴様には死よりも無惨な日々をプレゼントじゃぃっ!!!ふんっ!!!」
「げぶふぅ!!」
運転手のおやぢから放たれた衝撃波で吹き飛んだ俺はバスから放り出されていた。
ぶろろろろ〜〜!!
バスが音の壁を突き破らん限りのスピードで走り去っていく。
「・・・ここどこだー!!!???」
おやぢに連れ去られるようにたどり着いた先は先ほどの町とたいして変わらない、山と海に囲まれた小さな町。
「・・・まぁ、しかたない。しばらくここで稼ぐとするか・・・」
俺はゆっくりと歩き出した。これから始まる物語などまったく予測しないまま。
潮風にのって、ワセリンの臭いが運ばれてくる。
・・・・かなり、気分が悪くなった。
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