第八章


本当ににこれでいいのか!?と思うくらいに簡単に逃走成功。
逃走成功率の悪いRPGほどイライラするものはないしな。
とりあえず山の見えるほうに行くか。
あの戦場からなるべく遠くに…

いつの間にか見慣れてしまった景色を横目にひたすら走る。
さすがにダメージまでは回復していなかったので足に痛みが走る。
途中、川を見つけたので年甲斐もなく行水。
人二人分位の川。いや、小川というべきか。
砂の付いた腕や脚を簡単に洗い流す。
…気持ちいい。

「水着の女子はいねぇかぁぁーーーッ!?」

…。
少し調子に乗り過ぎたようだ。恥ずかしい。
真夏の太陽のせいで大胆になってしまった。
気が落ち着いたところで砂まみれのトランクスを念入りに洗った。


日向ぼっこをする事10分程度。想像以上に服の乾きが早い。乾燥機いらずだ。
橋の下に隠れながらトランクスを履く。
完全に服が乾ききったところで、橋の先に道が続いている事に気が付いた。
まだこの先には行ったことがない。
見た感じでは山道へと続いている。
オレの勘が正しければ、きっと人が集まる場所がある!
そこで人形劇を披露すれば、この町になんぞ速攻でオサラバ出来る!

…。

そういや、人形を探していたんだった。
まあいい、とりあえず行ってみてから考えよう。

…。


まさに山道だ…
眼下に先ほどまでいた町が見える。
とすると砂浜があそこにあるから…かなり走ってきたんだなオレ。
戦いの痕跡がくっきりと残っている…
これといって爆音が響いてないあたり、もう戦いは終わったのだろうか?
やはりボデドは死んだか…?
今更ながら少し負い目を感じている。
が、あの偽犬なら何事もなく目の前に現れるだろう。そういう奴だ。
ボデドの生態については特命リサーチ2000Xに任せておこう。

などと考えているうちに目の前に鳥居があった。
そしてその先に気の遠くなるほど長い石畳の階段が…
たぶん、てっぺんには神社があるのだろう。

……引き返そう。
…いや、ここまで来たんだ。オレの勘を信じて!


…。


…。


…。


あと半分…。


…。


…。


これで何の御利益もない神社だったら問答無用でぶっ潰す!
何もなくてもぶっ潰す!
どっちにしろ賽銭箱だけぶっ壊す!
銭だ…銭銭銭銭銭銭………


…。


そろそろ空が開けて来たぞ…


…。


足の筋肉がパンパンに張ってる。


あと4段…

3…

2…

1…



 ダンッ(足音)


「!? キャァァァァァァァァァ!!!!!(野太い裏声)」

「えっ? うッ!?うおあああああぁぁーーー!!!!がはっ!!!(吐血)」

「ぉおふぅ、えってぃぃぃ!!!(野太い別の声)」


目に飛び込んできたのは神社の前で結合する2つの筋肉。
それがどういう事なのか、深く考えたくなかった…

逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃ…

暴走する思考とは別に、消滅する意識。
オレはもう駄目だ…
 

 羽根の生えた少女が見える…
 
 最後には幸せな記憶を…

 
 「さようなら」















っ!!いかん!!
わけもわからず無理矢理強引に感動もなく終わってしまうところだった…!
しかも端折り過ぎた!!!


倒れたときに打ったのだろう、ジンジンしている後頭部をさすりながら起き上がる。
記憶が錯乱している…ここまで石段を登って来たまでは覚えているのだが…
そのあと何かあったんだっけ…?

一瞬、筋肉の塊が白い霧のような中からぼやっと浮かんだがすぐに消えた。

…そうだ、ここには路銀を稼ぎに来たのだ。
そうとわかれば、さっそく芸を披露せねばなるまい!



辺りには誰もいなかった。



さらにこの町が嫌いになった。
一応賽銭箱を覗いては見たが当然中身が見えるはずもなく。
壊すのも気が引けるので、やめておく。
折角なので願をかけておく。

「金だ、金をくれ! いいからよこせ、金を出せ。同情するなら金をくれ!!」

これだけ熱心に願っておけば叶うであろう。
その時、社の扉に貼り付けてある張り紙に気が付いた。


 『安産祈願』


側転をしながら神社を後にした。





来た道を何も成し遂げられずに引き返すのは悲しい事である。

この山道は高さのある木々に囲まれているせいもあって日陰が多い。
そのため幾分涼しい。
右手には町並みを望むことができる。
散歩にはもってこいである。が、金にはならない。

しばらく歩いたところに小学生くらいの子供の姿があった。
男の子二人と女の子一人。
三人揃って木の上を見上げている。何かあるのだろうか?
わざわざ構うこともないので気にせず通過しようとした時、

「ねぇねぇ」

男の子のひとりに呼び止められた。

「おじさん、この木を思いっきり蹴ってくれない?」
「誰がおじさんかーーー!!!!」

 ガスゥッ!!

怒りのこもった渾身の力で木を蹴った。

 ボタボタボタボタッ!!!

「うおっ!?」

カブト虫やらクワガタ虫やらがたくさん落ちてきた。
さすが田舎だ…これだけいると一体いくらぐらいで売れる!?
このでかいクワガタ虫なんてかなりの値になるのではないか?

「よってお前ら、出すものをだせ」

たくさんの虫に囲まれてはしゃいでいたガキ共にビシッと大人らしく言ってやる。

「えっ?何を出すの?」
「決まってんだろ、アレだ」
「アレって?」
「なんだ?焦(じ)らしプレイか!? コレだよコレッ!」

手の平を出して、親指と人差し指で輪を作る。
そしてどういうわけか、男の子の後ろにいた女の子がとんでもない行動に出る。

「しょうがないなぁ、お兄ちゃんのH」

と言いながら服を脱ぎ始めた…
なんて萌える台詞をーーー!!

だが、背後からとてつもなく冷やかな視線を感じた……

 ヒソヒソヒソ…

少し離れた所から、二人のおばさんが突き刺さるような視線でオレを見ながらひそひそ話している。

……いつの間に背後に!?
さっきまで誰もいなかったのになんでこんな時に限って!!
弁解の余地ナシ!!!

「チクショォォォ〜〜〜〜〜〜〜!!!!訴えてやるっ!!!」

オレに出来る抵抗はこれくらいしかなかった。
叫びながら下り坂を全力で駆け下りていく。
帽子があったら地面に叩きつけたかった。

オレは風になるっ!!!





…。
……。

商店街。

ここならば人がいないはずがない。
なにせ商店街だからな!
ただし商店街といえど、所詮は田舎町のもの。店がぽつぽつ並んでいるだけである。
しかしここには確かな生活の息吹が感じられた。

一軒一軒確かめながら、芸をするのに適当な場所を探す。
さすがに個人の家の前でするわけにはいかないが。
人が寄り付きそうなところで、なおかつ目立ちそうなところと言えば…

ここだ。

整った白い建物。
診療所と書いてある。
自転車を停めるためのスペースか、コンクリートで整地された地面。
さらに診療所ということで、嫌でも人が来る。
さすがオレ。実に適切な場所を見出したものだ。

さて、気合を入れて始めるとするか!
法術お披露目!
人形がないので、かわりにお客さんの荷物を拝借する。
そうする事によって、種も仕掛けもないことをアピールできる!

ここは敵地、よって先攻!
一回表、国山奇人主人の攻撃!!!
かっとばせ〜〜〜、くぅにさきっ!!


………。


……。


…。



九回表国山奇チームの攻撃は三者凡退に終わった…
完封負け。
なんで誰も通らないんだぁぁーーーー!!!!

「もう駄目だ…」

 ズシャ…

盛大に崩れ落ちる。
仰向けに倒れたせいでとても眩しい。
オレの心の砂漠化はいつ癒されるのだ…
ゼロは何も答えてくれない…

「教えてくれ、五飛!!」

「おい。人の診療所の前で行き倒れないでくれ。人が遠ざかる」
「安心しろ、まだ誰も来ちゃいない」
「皮肉か?」
「全然」

日光を遮って女の影が顔を覆った。
この女は…

「お前はキャノンの姉…」
「ご名答。聖様と呼べ、国山奇君」
「おばさん水をくれ」

 サクッ

「聖様、水と絆創膏をください」
「よかろう、今日の私は機嫌がいい。入りたまえ、茶でもご馳走してやろう」
「遠慮なくいただこう」

正直なところかなり喉が渇いていたところだ。
飲むもの飲んでさっさとずらかろう。


診療所に入る。

「………涼しぃーーーっっっ!!!!」
「なんだ、クーラーも知らないのか?」
「さすがに知っている。ただこんな町にもクーラーがあったんだなと」
「診療所だからな。待合室でくたばられても困る」
「…ってこの診療所、この前の戦いで大破してなかったか?」
「急遽建て直ししたのだ。本来ならば貴様など出会った瞬間切り刻んでやりたいのだが、
 また壊されてはたまらないのでな、見逃してやる」
「そりゃどうも…」

診療所が崩壊した原因の8割以上はアンタにあるんだが…
余計な事を言うと貴重な飲料に出会えなくなってしまうので大人しくしておく。

それにしても短期間でよく直したものだ…
しかしところどころに漢臭さが残っている……
例えばあの『風邪予防』と書いてある、うがいをしている少年のポスターの横、
大殿筋のみが美しく写実的に描かれているポスターが貼ってある。
でかでかと『お・し・り』と書かれたポスターが…
短期間のうちにこの建物が復活した理由が少し解かった。

そのまま待合室を通り過ぎ、診察室に招かれた。

「おい、いいのか? こんなところに他人を入れて」
「気にするな。リビングだと思ってくれていい」

かなり無理があるな。
消毒液の匂いが充満している。
清潔感を出す為に白色で統一された部屋のせいで妙に落ち着けない。

「さあ、飲め。これは高級な麦茶だ」
「飲む前に高級だ、と念を押されると疑いたくなるな」
「嫌なら飲まなくてもいいんだぞ?」
「誰が飲まんと言った。自慢じゃないが、すごく喉が渇いていて仕方がない」

…。

言われてみれば確かに美味しいかもしれない。
公園の水道が主な飲料であったオレが言っても意味がないだろうが。

「ところで、男の目から見てキャノンはどうだ? 良くできているだろう?」
「(できている!?)ああ、思考と肩幅を除けばな」
「そう言わんでくれ。肩幅は普通にしていればどこから見ても女の子のものだ」
「普通にしていればな。それと重火器集め及び無差別乱射の趣味を何とかしてくれ。
 近いうちに町が吹き飛ぶ日が来るぞ」
「キャノンも年頃の娘だからなぁ」
「年頃で片付けられても困るんだが…」
「年頃と言えばキャノンの事だが、この頃胸の発育が良くてな。この間確かめてみたら加速的に成長していた。
 どう思うかね、国山奇君」
「どう思うって…」

どうもこうも直接見たことがない。
………確かめたのか。
どうやって?

想像してみる。


 「キャノンはいつも可愛いなぁ〜〜、なでなでなでなでなでなでなで」
 「お姉ちゃん頭ぼさぼさになっちゃうよ〜」
 「ん?そういえば気が付かぬうちにだいぶ女らしい体型になってきたな。
  どれ、久しぶりにお姉ちゃんに見せてごらんなさい」
 「ちょっとお姉ちゃん、やめてよぉ〜〜〜〜〜」
 「ハァハァ、おいさんいたくしじゃーから…」
 「うわわ、変態偽犬になってる〜!」
 「減るものでもあるまい。そんなに恥ずかしいなら二人で裸になろうか」


ついつい目線が聖の胸元へ――行く前に目線があった。

「うっ…」
「何だ?」

実際に妄想の登場人物が目の前にいるとかなり恥ずかしい。
イケナイ気分は一気に覚めた…

「どうした? 気にせず進めてくれたまえ」

……バレてるーーー!?

「これでも私は妹萌えでな。そういう妄想だったら構わずどんどんやってくれ」

妹萌えなのはとうに知っているが…

「このままだと年増の裸も連想しなければならないので、やめておきます」

 サクッ…

………。
額に一本のメス。

「…冗談ですからせめてメスを構える仕草だけにしてくれないでしょうか?」
「西部劇のガンマンよりかは早くメスを投げる事ができる」
「いや、そういうことじゃなくて」
「それでな、キャノンなんだが――」

この後延々とキャノンの自慢話が展開された。
よかった事と言えば麦茶をたらふく飲めたことなんだが。


「今時アレほど素直な娘はいないぞ、今がチャンスだ国山奇君」
「チャンスって…」
「素直も素直、あのバンダナもな―」
「バンダナ?」
「何だ、気づかなかったのか? 手首に巻いてある黄色い布だ」

あまりに重火器が目立ちすぎていた為、すっかりキャノンの腕に巻いてあるバンダナの事を忘れていた。
確かに巻いていたような気がする…

「そのバンダナなんだが、くれぐれも外さないようにな」
「外すなと言われれば外そうとはしないが…」

少し気になったので何故か聞こうとしたのだが、すぐにその話からそれてしまったので黙っておいた。


「男の君から見てキャノンはそれはもう放っておけない娘であろう」
「いや、そうでもない」
「何!?貴様キャノンを侮辱するのか!?」
「そういうわけではない」
「…それとも私の方が目当てだと? 気持ちはわからんでもないがな。
 この魅力溢るる素敵なお姉様を目の当たりにして黙っている輩はいないだろうからな」

その性格と余計な戦闘力を見せつけなければそうかもしれないが。
正直に言うとまたメスが飛んでくるので言わない。

「だがキャノンは可愛いからなぁ〜〜〜ああ、いい…」

完璧なシスコンだ……


……。


「今はもう前線を退いてしまったが、まだまだ私のメスの切れ味は鈍っていない。君の身体で試してみようか?」
「絶対に嫌だ。それより、大掛かりな手術をするわけでもないのに、何でメスを常備しているんだ?」
「国山奇君、君は武器を持たずに敵地に突撃するFBIを見たことあるか?」
「いや、例えの意味がわからないんスけど… ん?あそこに飾ってある特別扱いのメスは何なんだ?」
「よくぞ気づいてくれたな国山奇君。見てみるか? 磁石につかないチタン合金で出来ているメスだ」
「アンタ雷帝と戦う気なんですか!?」


……。
………。
……。


「仲間はみんな殺されてしまった! しかし私は仇をとる為、一人でも多くの奴らを道連れにしてやる!と一人奮闘した。
 そして数えきれぬ程の無限城の猛者どもをこの紅に染まったメスで―」
「お前は赤屍蔵人かっ!?」
「誰だそれは?」
「いえ、何でもないです……」


……。
………。
……。

「そいつは愚かにも汚らわしい言葉を私に向けたのだ。顔も汚らわしかったが。
 だから私はそいつの背中に刻んでやった、“J”の文字を、美しくな」
「ドクタージャッカル…」
「ん?何か言ったか?」
「いえ、何でもないと思いますです…」


……。
………。
……。


「…ん、そろそろキャノンが帰ってくる時間だな」

部屋の白いはずの壁はオレンジ色に染まっていた。

「では夕食の準備でもするか。言っておくが貴様にあげる飯はない」
「ふっ、オレにも大道芸人としての意地がある。情けはかけるな」
「意地やプライドだけでは腹は埋まらん」
「ふっ、その通りだ!」
「えばるな。限界ギリギリまで死にそうになったら診殺してやるから来い」
「診殺!?」
「冗談だ。少しくらいなら飯を分けてやろう。ただしキャノンがいいよと言えばだがな」
「死の淵まで辿り着いたらここに来てやる、覚悟しておけ!」
「あえて死の淵まで行って強さを手に入れてみたらどうだ?
 聖様自ら半死状態にしてやるが?」
「確実に全殺しになるので断る!それ以前にオレはサイヤ人ではない」
「実は、君はカカロットと同じ日に生まれたのだ」
「オレの母親は地球人だ」
「ならばサイヤ人と地球人の混血児」
「そんなにオレを半殺しにしたいのか?」
「当然」
「……」
「……」
「まあいい、もう行く。邪魔したな」
「くれぐれも家の前で野宿しないように」
「安心しろ。猛獣の檻の前で寝れるほど無神経ではない」

 シャキンッ

「…それはどういう事だ…?」
「そういう事だ」

メスが飛んでくる前にさっさと退散した。




………暑。夕方なのに暑…。
クーラー…ビバ、文明機器。




「ふぅぅ〜〜〜〜蘇るぜぇぇぇ」

クーラー最高!もうお前を二度と離さない!!

「…………うおっ!?」

目の前に無数のメスが降り注ぐ。

 ザクザクザクザクザクザクザクザクザク!!!!

何とか全て避ける事に成功した。

「ほう…?私のブラッドレインが避けられるとは…」
「危ないではないか!死ぬところだった!」
「ならば次はどの技がいい?」

クーラーよ…オレとお前はどうやら結ばれぬ縁にあったようだ…!
まさにロミオとジュリエット!!!
あぁ!!何故あなたは―

「さっさと行け」

 ガスッ

尻を蹴られて外に叩き出される。
仕方がない。ここにいてはいくつ命があっても足りない。
さて、日が沈むのも時間の問題。
寝床を探さなくては。

どこへ行こうか?

「あ!ぬしと君だぁぁ〜〜〜!!!」
「びごぉ〜〜〜」

聞き覚えのある声と聞いた事のある音(?)が聞こえた。

「ぬしと君遊びに来てくれたんだぁ?」
「いや、今帰るところだ。聖に追い出されてな」
「え〜〜つまんないの」
「びご!」
「ところで偽犬よ。お前生きていたんだな」
「びごぉ?」
「いやいや、勝手に逃げ出して申し訳ないとは思っているぞ」
「びごびご?」
「それよりあの後どうなったんだ?」
「びごびごびご?」
「…おい、しらばっくれてんのか!? ちゃんと喋らんかい!」
「うわ〜〜〜、犬に真面目に話しかけてる変態さんだ〜〜」
「うっ…」

確かに見知らぬ人から見ればそうなんだが、こいつは…
いや、そもそも目の前にいる“コレ”はオレの知っているボデドではないのか?
あの生物は量産型なのか?

「でもでも、ぬしと君旅人さんなんでしょ?どこに帰るの?」
「……わからない」
「それならうちに泊まっていくってのはどう?今頃お姉ちゃんがご飯を作ってるころだよ」
「それはつまりなんだ、遠まわしにハァハァオッケイって事か!?
 そういう事なのか!? 若い男子と女子が一つの屋根の下に泊まるってのは――」

 ヒタ…

首筋に何か鋭く冷たい感触が走る…

「妹に余計な事を吹き込まないでもらおうか」
「……いつからいらしたんですか…?」
「あ、お姉ちゃん!ただいま〜〜!!」
「おかえり、キャノンはいつ見ても可愛いな〜〜〜〜
 っと、では国山奇君、このままメスの錆になるか立ち去るか好きな方を選びたまえ」
「僕は旅に出ます」
「うむ、賢明な判断だ」
「お姉ちゃん、今日の夕飯は何?」
「今日はキャノンの好きなものをいっぱい作ったぞぉ〜〜!」

ああ、腹減ったなぁ…
またあてもなくさ迷うのか…せめて食事だけでも何とか確保しないと身が持たん。
そのためにはお金が…

などと必死に思考を張り巡らしていた時、“ヤツ”は言ったのだ!!!

「くっくっく、ぬしと君。親子丼ならぬ姉妹丼は最高だゾォォ〜〜〜」

 バッ!!

診療所の方に振り向く。
しかしもう誰の姿もなかった。
だが、確かに今、ボデドの声が聞こえたのだ。

あの偽犬めぇぇぇーーーーーーーー!!!!
なんて羨ましい!!!

今度会ったらタダじゃおかない!!!


……がその必要はなかった。

歩き始めたのと同時に診療所から声が漏れてきた。

「危なッ! お、オイ!気を付けろ年増ァ!!!」

ボデド…その台詞は自殺志願としか聞こえないぞ…

「…ってちょ、ちょっと待てェ!!」

叫び声が徐々に悲鳴染みてきた…。

「待て!待てと言うに!!! 
 やめんかい! これ以上近づこうならばアレを言うぞ!!!」

がんばるなボデド…。アレって何の事だ?

「言うぞ!いいんだな!!!おい! 貴様の名は聖ではなく本当はいじ――
 ぉぶはぁっ!? ま、マジすか!? それって……待って、ちょと待って!!!
 落ち着こう!!話せばわかる!わかり合える!!!人類皆兄弟!! …やめ!やめるんだぁ!!やめてぇ!! う、うぐぅ!?
 あびゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



…。
……。
………。

オレは何も見ていないし聞いてない。
だから何事もなく歩き始めてもいいのだ、問題なし。
世の中には知らない方が幸せな事はたくさんあるのだ。



ボデドの末路を看取ったのでこれからの事を考えよう。
もう野宿は嫌なので、今日こそは第一目標としてせめて屋根のある場所で寝たい。
だが下手に再び診療所に踏み込めば確実な死が待っている。
グラビア雑誌をばら撒き敵の注意を引き付けておきながら……って相手は女だ、意味がない。

そこで思いつくのは例の駅。ナギーと煮汁のいた場所だ。
人気もなく寝床にするだけなら誰も文句は言うまい。
よし、決まりだ。

しかしよくよく考えると一文無しの手ぶら状態。
さらに深く思い出すと、オレの荷物が入っているバッグはキャミOHの家。
そしてキャミOHの家は全壊している。
危険は多いが、まずはキャミOHの家に行くべきか…
日が完全に沈むまではもうしばらく時間がかかりそうだ。バッグぐらいなら探せ出せるかもしれない。

キャミOHと遭遇しないことを切に願いながら、バッグ回収の為に歩き始めた。

 

 

 

 

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