『マッスルAIR』 第一章 〜〜漢達の狂乱〜〜


無限に広がる青空の下、止むことのないセミの鳴き声の中、
俺は漢達に追われていた。



そもそもことの始まりは、人形劇の披露からだった。

無人のバス停でそれをやっていると三人の筋肉質な漢達がやってきた。

漢A「にいちゃん、金欲しいんか・・・? やらんこともないが・・・じゅるり」

俺は速攻逃げ出した!
あの目の光は・・・危険だ!
無意識のうちに体は動いていた。全力で疾走した。
しかし、とんでもないことに漢達は追ってきた!
運動神経に自信がないわけではないが、振り切れなかった!
夏の日差しが肌に痛い。
空気が熱い、薄い。

筋肉H「ふん、はあっ!なかなかしぶとい奴じゃ!」
筋肉T「ぬううううン!それでこそ、極上の獲物よぉ!」

増えてる・・・!?しかも既にAからTまで!!ドラクエじゃあるまいし・・・
マズイ。捕まったら一体何をされることやら。
筋肉の漢達に囲まれて楽しいことは何一つないだろう。

筋肉P「しかたない!あの漢を呼ぶぞ!」
筋肉S「ぬん!いたしかたないかぁ!!!」

なんてことだ!筋肉達は秘密兵器を投入するらしい・・・!そしてもうSまで・・・!A・B・C・D・・・・・・つまり19人の漢達!

「お前らはマドハンドかッ!!」
筋肉D「どちらかというとスライムかのぅ」
筋肉J「合体してキングスライムに?」
筋肉C「合体!?みんなで結合するかッ!?オオゥ、ボンバイェ〜〜〜〜!!!!」
「お前ら帰れぇぇぇーーーー!!!」

はやく!はやくこいつらから逃げ延びたい!!
今ほどヒトの運動能力の限界を恨んだことはない。



あたり一面の青。青の海で優雅に泳ぐ真っ白な雲。
絵に描いたような空。
この空の向こうには、ただ闇が広がるのみとは誰が思うだろうか・・・?
夏。
生命の最も輝ける季節。
この光あふれる静寂の街に・・・
漢達が爆走する。

わはははははははははははははははははははは!!!!

「ふん、ふん、ふん、はあっ!!」
「ぬん、ふっ、くふ、はあぁぁあ!!」
「ぶふぅ、ふん、ふくぅ、ふん、はふぅ〜!」

“夏”崩壊の瞬間である。



「なんでしつこく追ってくるんだ・・・?」

人は自らの肉体の破滅を避けるため、ある程度の力は無意識のうちに残しているものだ。
俺はその一線を越え・・・限界の力を開放した!!

「ふるあああああぁぁぁぁぁぁああああっ!!!」

あとのことはもう考えない。

気を少しでも抜いたら崩れ落ちそうになる中、漢達の気配は感じられなくなった。
目の前には地平線、つまり海がある。
暑さで思考が狂っていた俺は躊躇することなくダイブした。

 ザッパーーーンッ

ああ・・・気持ちいい・・・
海に揺られながら、意識は深い闇の中へ・・・



・・・・・・魚臭い。
気がつくとそこは魚市場らしき場所。

「あんた、魚網に引っかかってたんだよ!」

おばさんが唐突にいう。

「行き倒れた」
「せめて地面で倒れておくれ」
「今度はそうしよう」

おばさんは笑って言った。

「そのぶんじゃお金ないんでしょ?おにぎりを持っておいき!」
「とびきりでかいのを頼む」
「はいよ!任せておきなっ!」

そして俺の顔ほどもある巨大な塊を携えて、あてもなく歩き始めた。
まさに田舎とはこれだな。
静かな街をゆっくり歩く。誰一人いない。
セミは相変わらずうるさく、日差しは休むことなく照らしてくる。

「ここは商店街か・・・」

路銀を稼ぐために人形劇を始めることにする。
適当な店を探し、その真正面に座りこんだ。
間もなく子供の声が聞こえてきた。

「ふ、飛んで火にいる夏の虫・・・だな」

俺は人形を地面にセットする。
そして人形に手を触れしばし神経をを集中する。人形に意識を送り込む。
案の定、子供達は俺めがけて走ってくる。
(捕獲完了・・・!)
その時、子供は叫んだ。

「雷獣シュゥゥゥーーーート!」

 ボムッ

人形は虚空に・・・華麗に美しく舞った。

どこまでも高みへ・・・・・
人形は飛んでいく・・・・・・・・

 ミーンミーン・・ジーコジーコ・・・

蝉の鳴くその無常な音はいつもよりうるさく聞こえた。

子供兄「どうだお兄ちゃんの華麗な蹴りは・・いつもよりも飛んだな」
子供妹「お兄ちゃんすごーい、私もやる・・・」
子供兄「ははは、もう、蹴るものないよ・・・・」
子供妹「あっ!そうか・・・・でもこの人、座ったまま動かないよ・・・」
子供兄「この人蹴っちゃえ!!!」
子供妹「うん!そうするね」

俺はしばし放心状態にあった。
蹴られた人形を凝視しながら青い空を見上げた。
子供たちの声はまともに聞こえなかった。
アスファルトから伝わってくる熱のせいでケツが熱いなぁ〜〜、などと考えていたかもしれない。
その間は、一呼吸するぐらいの、そんな小さな瞬間の内に子供たちは次の行動に出た。

子供妹「ほあったああああああああああ」

目の前に子供の足が迫ってきた。
さすがの俺も我に帰り、子供の蹴りを受ける防御の姿勢に入った。
子供の蹴りは俺のあごを狙ってきた。
俺はいま腰を降ろしている状態で、子供の背丈でも俺のあごを蹴るのには十分とどく距離だった。

俺はしばし考える。
その瞬間は、約1秒にも満たない瞬間であった。

このまま蹴りを受けるのは、俺のプライドが許さなかった。
蹴りをかわしつつ、カウンターを入れる体勢に入った。

子供妹「しゃあああああああああ!!」

蹴りが俺のあごをかすめる。

 シャアア!
 ピィ!

あごから血がでた・・・
そんな力が子供にあるのか!?
疑問に思いながらも次の行動にでた。

「あまい!・・・・やはり子供は子供だな」
俺は子供の蹴りを難なくかわし、その体勢からカウンターパンチをいれた・・・


はずだった・・・・・・・



 バシイイイイイ

「なに!」

子供はその非力な腕で俺の全身全霊のパンチを、指二本で受け止めた!!!

・・・・・あまいのはお前だよ・・・・・

 ゾク!

背筋が凍りついた。
頭の中に声が聞こえた・・・・・・・
なんだろう・・・・・・・・・・・・・

なぜか俺の頭に電波が届いた・・・

 ちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちり・・・

痛い・・・・・もうやめろ・・・・・・
そうか・・・・この電波らしきもので痺れたせいで俺のパンチが鈍ったのか・・・・・!?

子供妹「あなたはもう終わりね・・・・・うらあああああああああ」

嘘だ・・・・・
こんなことがあるのか・・・・
これは夢か・・・・・・
夢なら覚めてほしい・・・・

「うあああああああああああああああああああああああああああああああ」

子供の放ったダブルクロスカウンターで俺は広い広い大空に舞った・・・


子供兄「やっぱりすごいなお前」
子供妹「えへへ、毎日訓練してるもん」
子供兄「よし、そろそろ行くか瑠璃子」
子供妹「うん、お兄ちゃん」

子供兄「さっきお前がなんで二本の指で受け止められたか知ってるか」
子供妹「うんうん、知らないけど、あのお兄ちゃんいきなり弱くなったというか、へろへろって、力がぬけてた」
子供兄「そうか、わかんなかったらいいけど、いつかお前にも使える日がくるからな」
子供妹「なにそれ・・・・でも楽しみにしてる」
子供兄「よし、毎日訓練だ・・・・・・・・・・兄貴と一緒に」


俺は空に舞ったが、その名前だけは聞こえた・・・

瑠璃子・・・・・・・・兄貴・・・・・
先ほどのやつらと関連があるのか・・・・・・

俺はその名前を、絶対忘れない・・・・・・・
いつか・・・・・・・・・・・・・きっと・・・・・

だがそんなことは今はどうでもいい。
子供(瑠璃子と呼ばれた少女)にパンチをもらったおかげで俺は現在高度3100メートルを突破した。
もうすぐで富士山に届くな・・・・
そんなのん気なことを考えながら俺は空に舞った。

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